危険物取扱者の勉強のために! 簡単にわかるアクリル酸の性質

アクリル酸は、紙おむつの高吸水性ポリマーや塗料、接着剤の原料として広く使用される化学物質ですが、同時に消防法で指定された「危険物」でもあります。

そのため、危険物取扱者の試験では、アクリル酸の性質や危険性、正しい保管・取り扱い方法が頻繁に問われます。知識を丸暗記するだけでなく、なぜ危険なのか、どのような事故につながるのかを理解することが、実務での安全管理と試験合格の鍵となります。

この記事では、「アクリル酸は危険物」という視点から、その具体的な性質、危険性、安全な取り扱い方法までを詳しく解説します。

この記事は次のような方におすすめです

  • 危険物取扱者試験(特に乙4)の勉強をしている方
  • 職場でアクリル酸を取り扱うため、安全な管理方法を知りたい方
  • アクリル酸の引火点や腐食性などの危険性を具体的に知りたい方

1. アクリル酸の性質と危険物分類

アクリル酸(Acrylic acid)は、特有の刺激臭を持つ無色の液体です。まず、危険物取扱者試験の最重要ポイントである「分類」と「物性」を表で確認しましょう。

項目内容補足(重要度)
消防法上の分類第4類 危険物(引火性液体)★★★
品名第二石油類★★★
性質水溶性液体★★☆
引火点54℃★★★
融点12℃★☆☆
その他腐食性、重合しやすい★★★
アクリル酸の危険物としての物性表

1.1. 危険物 第4類・第二石油類とは

アクリル酸は、消防法上の危険物「第4類 引火性液体」に分類されます。これはガソリンや灯油と同じグループです。

さらに第4類の中でも、引火点が21℃以上70℃未満のものが「第二石油類」に分類されます。アクリル酸の引火点は54℃であるため、第二石油類(水溶性液体)に該当します。

引火点54℃は常温(20℃程度)では引火しにくい温度ですが、夏場の高温環境や加熱・加温時には引火の危険が急激に高まります。また、融点が12℃と比較的高い(凝固しやすい)ため、冬場に凝固したアクリル酸を溶かす際に加熱しすぎて引火点に達してしまう、という事故にも注意が必要です。

1.2. アクリル酸の主な用途

アクリル酸は、それ自体が最終製品になることは少なく、主に「原料」として使用されます。

  • 高吸水性ポリマー(SAP): 紙おむつや生理用品の吸収体
  • アクリル酸エステル: 塗料、接着剤、粘着剤、アクリル繊維の原料

このように多くの工場で大量に使用・保管されるため、危険物取扱者による適切な管理が不可欠です。

1.3. 【要注意】重合しやすい性質

アクリル酸の危険性を語る上で、引火性と同じくらい重要なのが「重合(じゅうごう)」しやすい性質です。

重合とは、分子が次々と連鎖的につながっていく化学反応のことです。アクリル酸は熱や光、不純物の混入によって重合が始まりやすく、一度始まると「重合熱」という熱を発生させます。この熱がさらに反応を促進させ、急激な温度上昇と圧力上昇を引き起こす「暴走反応」に至ることがあります。

この暴走反応により、容器が破裂したり、火災・爆発につながる重大事故が過去にも発生しています。そのため、保管時には重合を防ぐための「重合禁止剤」が添加されています。

2. アクリル酸の主な危険性

アクリル酸が持つ危険性は、「燃える」こと、「人体に有害」であること、そして前述の「暴走する」ことの3点です。

2.1. 火災・爆発の危険

引火点が54℃であり、その蒸気は可燃性です。アクリル酸を取り扱う場所では、静電気、火花、高温体などの着火源を厳重に管理し、「火気厳禁」を徹底しなければなりません。

また、重合の暴走反応による爆発の危険もあります。過去の事故事例では、凝固したアクリル酸を溶かすために不適切なヒーターで加熱したことや、重合禁止剤の管理不備が原因で暴走反応が起き、大規模な爆発事故に至ったケースがあります。

2.2. 人体への有害性(腐食性)

アクリル酸は強い腐食性を持っています。これは皮膚や粘膜を侵す性質です。

  • 皮膚への接触: 液体が皮膚に付着すると、化学やけど(薬傷)を引き起こします。
  • 蒸気の吸引: 刺激臭のある蒸気を吸い込むと、喉や気管支、肺の粘膜が侵され、呼吸困難や肺水腫を引き起こす危険があります。
  • 目への飛散: 失明に至る可能性のある深刻な損傷を与えます。

取り扱い時には、保護メガネ(ゴーグル)、耐酸性の保護手袋、保護衣、必要に応じて呼吸器保護具(防毒マスク)の着用が必須です。

3. アクリル酸の取り扱いと保管方法

アクリル酸の危険性(火災、爆発、腐食)を踏まえ、取り扱いと保管は以下のように行います。

3.1. 取り扱い時の注意点

  • 火気厳禁: 取り扱い場所では火気、火花、静電気対策を徹底します。
  • 保護具の着用: 前述の通り、保護メガネ、保護手袋、保護衣を必ず着用します。
  • 換気: 可燃性蒸気が滞留しないよう、局所排気装置などで十分な換気を行います。
  • 漏洩時: 少量でも漏れた場合は、安全な保護具を着用した上で、土砂や不燃性の吸収剤で回収し、密閉容器に収めます。河川や下水に絶対に流してはいけません(水溶性のため水質汚染の原因となります)。

3.2. 保管時の注意点

  • 保管場所: 直射日光を避け、火気のない冷暗所で、換気の良い場所に保管します。
  • 容器: 蒸気漏れを防ぐため密閉できる容器を使用します。容器の材質は、腐食や静電気の帯電を防ぐため、ステンレス、アルミニウム、ポリエチレン内張り容器などが指定されます。
  • 重合禁止剤の管理: 重合を防ぐために添加されている重合禁止剤が適切に機能しているか、定期的に濃度を管理する必要があります。
  • 凝固防止: 融点が12℃のため、冬場は凝固する可能性があります。凝固した場合は、爆発の危険があるため直火や高温スチームでの加熱は厳禁です。必ず50℃以下の温水などでゆっくりと加温・溶解します。
  • その他: 腐食性があるため、コンクリートの床に直接置くと床を侵す可能性があります。

4. アクリル酸に関するQ&A

Q. アクリル酸のほかに第二石油類には何がありますか?

A. 灯油や軽油が、アクリル酸と同じ第二石油類(非水溶性)の代表例です。アクリル酸は「水溶性」の第二石油類に分類されます。

Q. アクリル酸が発火した場合、水で消火できますか?

A. いいえ、水による消火は適していません。アクリル酸は水溶性ですが、燃焼範囲を広げる可能性があるため、注水消火は避けるべきです。粉末消火薬剤、耐アルコール泡、二酸化炭素(CO2)などによる「窒息消火」が基本となります。

Q. 腐食性とは具体的にどういう意味ですか?

A. 物質を化学的に侵し、ボロボロにしてしまう性質のことです。アクリル酸は金属の一部やコンクリートを腐食させます。それ以上に危険なのが人体への腐食性で、皮膚や粘膜に触れると火傷(やけど)と同じような深刻なダメージを与えます。

Q. 少量でも取り扱いに注意が必要ですか?

A. はい、もちろんです。火災の危険性もさることながら、強い腐食性があるため、一滴でも皮膚に触れたり、目に入ったりすると重大な傷害につながります。必ず保護具を着用してください。

5. まとめ

アクリル酸は、私たちの生活に欠かせない製品の原料であると同時に、取り扱いを誤れば大事故につながる危険物です。危険物取扱者として、以下の重要ポイントを確実に押さえておきましょう。

  • 分類: 第4類 危険物・第二石油類(水溶性)
  • 危険性①【火災】: 引火点54℃。火気・静電気厳禁。
  • 危険性②【有害】: 強い腐食性。皮膚、目、呼吸器への接触を厳禁(保護具必須)。
  • 危険性③【爆発】: 熱や光で「重合」しやすく、暴走反応(爆発)の危険がある。
  • 保管: 冷暗所保管。重合禁止剤の管理と、凝固時の不適切な加熱(直火など)の禁止。
  • 消火: 水は不可。粉末、耐アルコール泡、CO2による窒息消火。

これらの知識を確実に身につけ、試験対策と現場での安全管理に役立ててください。

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