安全データシート(SDS)とは、人体にとって有害な成分が含まれている化学物質を販売する際、業者が提出する資料のことです。化学物質等の性状や取り扱いに関する情報が記載されており、法令によって統一した書式で作成して提出するように、定められています。リスクアセスメントを行うために不可欠な資料です。
今回は、安全データシートの作成が義務づけられている物質や、記載内容について解説しましょう。
この記事を読めば、安全データシートの重要性もよく分かりますよ。安全管理を職務としている方は、ぜひ読んでみてくださいね。
安全データシートの基礎知識
はじめに、安全データシートとはどのようなものか解説します。なぜ、提出が義務づけられているのでしょうか?
安全データシートとはどのようなもの?
安全データシートとは、以下のような条件を満たした製品を原材料などとして事業者間で譲渡・提供する際、提出することが義務づけられている書類です。
- 化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)によって指定された化学物質(第一と第二があり、質量ベースで対象物を1%以上含む)
- 化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)によって指定された化学物質のうち、特定第一種に指定されている物質を質量ベースで0.1%以上含む製品
- 労働安全衛生法によって指定されている名称公表化学物質を含んだ製品
- 毒物及び劇物取締法で指定されている毒物や劇物を含んだ製品
これらの法律によって指定されている化学物質は、人体に有害なものであり、取り扱い方や保管方法を間違えれば労働災害が発生するおそれがあります。
そのため、製品を安全に取り扱ったり管理したりできるような情報を提供する必要があるのです。なお、安全データシートは基本的に紙や磁気ディスクで添付しなければなりません。ただし、譲渡や提供を受ける側の承諾があれば、FAXや電子メールの状態で提出することも可能です。また、JISZ7253:2012という規格で記載内容や全体構成が定められており、安全データシートを作成する専用のソフトなども販売されています。
安全データシートに記載される内容とは?
安全データシートに記載されている内容とは、以下のようなものです。
- 製品や会社情報
- 危険有害性の要約 (化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)で定められた絵文字などを使用)
- 製品に含有する指定化学物質の名称・指定化学物質の種別・含有率(有効数字2桁)
- 体内に入った場合や、皮膚にかかった場合の応急処置方法
- 製品が原因で火災が起きた際の処置方法
- 有害物質が漏れだした場合の対処方法
- 取り扱いや保管の際の注意点
- 製品が流出したり体内へ入ったりしないように予防する方法
- 物理的・化学的性質
- 安定性・反応性
- 有害性に関する情報
- 環境影響に関する情報
- 廃棄する場合の注意点
- 輸送する場合の注意点
- 規制など、適用される法律
- その他の情報
なお、これらは日本工業規格によって標準化されている記載内容です。純物質については、2012年から記載するように義務づけられていますが、有害物質を含んだ混合物については、2015年から記載が義務づけられました。また、この規格は今後改訂されることもあります。
例外
安全データシートの提出が義務づけられている化学物質を含んでいても、以下のような製品は提出義務がありません。
- 指定化学物質の含有率が指定の値より小さい
- 出荷される時に固形物であり、使用時も液体・気体にならない
- 対象の化学物質が密封された状態で使用する製品
- 一般消費者用向けに販売される製品
- 再生資源
なお、これは化学物質排出把握管理促進法に基づくものであり、労働安全衛生法などでは、対象物が異なることもあるので注意しましょう。
国際基準
安全データシートは、世界中で使われています。そのため、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)という基準によって、国際的に利用できる危険を表す絵文字などが定められているのです。厚生労働省提供の職場のあんぜんサイトの該当ページに絵文字等の早見表がありますので、参考にしてください。このような絵文字は、安全データシートだけでなく化学物質を含む製品のラベル等に記載されています。
安全データシートの活用方法
安全データシートは、リスクアセスメントに活用されます。リスクアセスメントとはリスク(危険)とアセスメント(見積もる)を組み合わせた造語です。有害物質が体内に入ったり、皮膚に付着したりして起こる可能性がある労働災害を予想し、対策を立てるまでの行為を指します。
また、安全データシートがあれば、厚生労働省が提供しているコントロール・バンディングを行うことが可能です。コントロール・バンディングとはリスクアセスメントツールの一つであり、安全データシートに記載されている内容を入力するだけで、管理対策シートを出力できます。
コントロール・バンディングを行えば、化学物質に詳しくなくてもリスクアセスメントを行うことができるでしょう。安全データシートに記載されている取り扱い方や保管方法を併せて使用すれば、労働災害を予防できます。
安全データシートに対するよくある質問
Q.外国製の製品の場合は、安全データシートも外国語で書かれているのでしょうか?
A.輸入業者が日本語に翻訳して提出します。
Q.対象化学物質を密封して使用する製品とは、何が該当するのでしょうか?
A.自動車のバッテリーなどが該当します。
Q.安全データシートを紛失してしまった場合は、どうしたらいいですか?
A.提供・譲渡してくれた企業に相談してください。
Q.安全データシートはどのように管理したらいいですか?
A.安全データシートの原本は専門のファイルなどに保管し、必要な情報を抜粋して安全教育などに役立てましょう。また、安全管理や衛生管理を行う人が、すぐに閲覧できるようにしておくといいですね。
Q.安全データシートは、譲渡や提供を受ける業者にだけ提出されますか?
A.製品を運ぶ流通業者にも、提出されるのです。ですから、多くの場合は複数提出先があるでしょう。
おわりに
今回は安全データシートについて解説しました。安全データシートは、有害な化学物質を安全に取り扱ったり保管したりするためになくてはならないものです。譲渡や提供を行う企業から提出を受けたら、すぐに閲覧できて、うっかり処分しないような場所に保管しておきましょう。