危険物を取り扱うためには、その危険性を深く理解し、国家資格を取得する必要があります。知識が不足していると、命に関わる重大な事故を引き起こす可能性があるからです。
危険物に関する現象として「爆発」がありますが、その中でも特に破壊力が大きい「爆轟(ばくごう)」という現象があります。この二つの違いを正確に理解することは、安全管理と資格試験のどちらにおいても非常に重要です。
この記事では、「爆轟」と「爆発(爆燃)」の違いについて、その種類、発生条件、関連する「CJ理論」まで詳しく解説します。危険物取扱者を目指している方や、用語の違いを明確にしたい方はぜひチェックしてください。
この記事は次のような方におすすめです
- 危険物取扱者試験の勉強をしている方
- 「爆轟」と「爆発」「爆燃」の違いを正確に知りたい方
- 爆轟がなぜそれほど危険なのかを理論的に理解したい方
1. 爆轟と爆発(爆燃)の違い
「爆発」とは、急激な圧力の発生と解放によって、破壊作用や大きな音を伴う現象の総称です。この「爆発」は、反応が伝わる速度によって、大きく2種類に分類されます。
- 爆燃(ばくねん):反応の伝播速度が音速未満のもの
- 爆轟(ばくごう):反応の伝播速度が音速を超えるもの
つまり、「爆轟」は「爆発」という大きなカテゴリの中の一種であり、その中でも最も激しく危険な形態を指します。一般的に「爆発」と呼ばれる現象の多くは、専門的には「爆燃」に分類されます。
「爆轟」と「爆燃」の決定的な違いは、**反応の伝わり方**と**速度**にあります。
1.1. 「爆燃」と「爆轟」の比較
検索キーワードである「爆轟と爆発の違い」の答えは、実質的に「爆轟と爆燃の違い」を理解することと同じです。両者の違いを表にまとめます。
| 比較項目 | 爆燃(Deflagration) | 爆轟(Detonation) |
|---|---|---|
| 読み方 | ばくねん | ばくごう |
| 伝播速度 | 音速未満 (数m/s 〜 数百m/s) | 音速を超える (1,000〜9,000 m/s) |
| 伝播の仕組み | 燃焼による熱や火炎が、次の未反応部分を加熱して反応させる(熱伝導) | 反応によって発生した衝撃波が、次の未反応部分を瞬時に圧縮・加熱して反応させる |
| 圧力 | 比較的ゆるやかに上昇 | 瞬時に極めて高い圧力が発生 |
| 破壊作用 | 圧力による押し出し(爆風)が主体 | 衝撃波による粉砕・せん断(すさまじい破壊力)が主体 |
1.2. 爆轟が持つ「衝撃波」のすさまじい破壊力
「爆轟」が「爆燃」と決定的に違うのは、**衝撃波(Shock Wave)**を伴う点です。
爆燃は、炎が「燃え広がる」現象です。一方、爆轟は、音速を超えた圧力波である「衝撃波」そのものが反応を引き起こしながら突き進む現象です。この衝撃波が物質を通過する際、瞬時に超高圧力をかけるため、物体を粉々に粉砕するような、すさまじい破壊作用をもたらします。
例えば、2011年の東日本大震災の際に発生した福島第一原子力発電所3号機の水素爆発は、その凄まじい破壊状況から、単なる爆燃ではなく「爆轟」が発生した可能性が高いと分析されています。衝撃波が音速を超えて伝播し、建屋全体を一瞬で吹き飛ばすほどのエネルギーが解放されたのです。
2. 爆轟(ばくごう)の種類と発生条件
2.1. 高速爆轟と低速爆轟
爆轟は、その伝播速度によってさらに2種類に区別されることがあります。
- 高速爆轟 (High Velocity Detonation: HVD)
一般的に「爆轟」と呼ばれるのはこちらを指します。伝播速度は 3〜9km/s(秒速3,000〜9,000m)にも達し、非常に安定した衝撃波を伴います。 - 低速爆轟 (Low Velocity Detonation: LVD)
伝播速度が 2km/s(秒速2,000m)程度のもので、不安定な状態です。ニトログリセリンやダイナマイト、黒色火薬などの粉末系で発生しやすいとされますが、多くの場合、この低速爆轟から安定した高速爆轟へと瞬時に移行(転移)します。
2.2. 爆轟が発生する3つの条件
爆轟は、どのような状況でも発生するわけではありません。特に気体(可燃性ガスや粉塵)の爆発において、爆轟が発生するかどうかは、主に以下の3つの条件に左右されます。
- 気体の濃度
空気中に可燃性ガスが充満し、爆発限界(燃焼範囲)内の適切な濃度であること。 - 空間の密閉強度(または距離)
密閉された空間(配管やタンク、建屋内)であるほど、発生した圧力が逃げ場を失い、衝撃波が形成されやすくなります。 - 着火エネルギーの大きさ
着火源のエネルギーが強いほど、初期の火炎の伝播が速くなり、爆轟に移行しやすくなります。
これらの条件が組み合わさることで、最初は「爆燃」として始まった火災が、配管内などを伝播するうちに加速し、「爆轟」へと転移する現象(DDT: Deflagration-to-Detonation Transition)が発生します。危険物施設では、このDDTを防ぐことが安全管理上、極めて重要です。
3. 爆轟を説明する「CJ理論」とは
「CJ理論(チャップマン・ジュゲ理論)」は、爆轟現象を熱力学・流体力学的に説明する上で、最も基本的かつ重要な理論です。
この理論は、爆轟を「反応物質の内部を突き進む衝撃波」としてモデル化したものです。爆薬の中を衝撃波が伝わると、衝撃波のすぐ後ろに「反応帯」と呼ばれる領域が出現し、そこで瞬時に化学反応(燃焼)が完了すると考えます。
CJ理論では、この反応帯が終わった点(CJ点)で、燃焼ガスが衝撃波の伝播速度と同じ速度で後方(衝撃波と逆向き)に流れると仮定します。この理論を用いることで、爆薬の種類や密度から、その爆轟速度や発生する圧力を計算することが可能になります。
危険物取扱者試験で理論の詳細が問われることは稀ですが、爆轟が「衝撃波と化学反応が一体となった現象」であり、それを計算可能にしたのがCJ理論である、と理解しておくと良いでしょう。
4. まとめ
この記事では、爆轟(ばくごう)と爆発(爆燃)の違いについて、その定義、種類、発生条件などを解説しました。危険物を取り扱う上で、これらの現象の正しい理解は不可欠です。
- 「爆発」は現象の総称。伝播速度により「爆燃」と「爆轟」に分類される。
- 爆燃(ばくねん)は、速度が音速未満で、熱によって燃え広がる現象。
- 爆轟(ばくごう)は、速度が音速以上で、衝撃波によって反応が進む現象。
- 爆轟は衝撃波を伴うため、爆燃とは比較にならないほどすさまじい破壊力を持つ。
- 濃度、密閉度、着火エネルギーが、爆轟の発生(または爆燃からの転移)条件となる。
- CJ理論は、爆轟の速度や圧力を計算するための基礎理論である。
これらの知識を身につけ、危険物の特性を深く理解することで、現場での安全な取り扱いを徹底しましょう。

